東京オリンピックの招致が決まった2013年、日本の訪日観光客数は急増の兆しを見せ始め、1000万人の大台にのせました。その時掲げられた当初の目標はオリンピックの2020年までに2000万人。しかしながらこの目標は早くも2015年に到達してしまいました。2016年6月に発表された「観光ビジョン構想会議」で発表された新たな目標は2020年に4000万人、2030年に6000万人です。
2017年の実績で見ると、日本の訪日観光客数は2870万人。世界ランキングでは12位です。2010年にはわずか860万人で28位であったことを考えると、急速に台頭してきているわけですが、世界1位のフランスの外国人観光客数は年間8700万人です。フランスの人口は6700万人ですから、人口の1.3倍のインバウンド観光客ということになります。
フランスの場合は欧州大陸の一部であり、ベルギー、ドイツ、スイス、イタリア、スペインと隣接していることは大きいかもしれません。しかしながらそれら隣接国の順位はスペインこそ8180万人(2位)ですが、イタリアは5830万人(5位)、ドイツは3750万人(9位)、スイスは1110万人(34位)とまばらです。隣接国が多ければインバウンドが大きいというわけでもないようです。
小西美術工藝社長で、日本政府観光局の特別顧問でもあるデービッド・アトキンソン氏は、観光の4大コンテンツは文化、食、歴史、自然であると指摘しています。この視点から考えるとこうしたコンテンツで大きな強みを持つフランスが1位であることは頷けます。食文化でフランスは抜きんでていますし、美術や歴史、そして海や山といった自然を有することは強みです。スペインは隣接国が少なくなりますが、同様なコンテンツを持ち、やはりインバウンドはフランスに次ぐ位置にあります。これに対してスイスは国土が小さく海はありません。自然は山が中心で、食文化も強くはありません。ベルギーも同様にこれらコンテンツではフランスやスペインに劣ると言えるでしょう。
これに対して日本はどうでしょうか?日本は島国であって隣接国がなく、アジアの最東端にあることがデメリットです。しかしながら4大コンテンツの観点からはフランスに匹敵する競争力があるといっても過言ではありません。世界ではどこへいっても今や日本食ブーム、文化や歴史でも世界が注目するものが多くあります。また自然の観点では世界に誇る雪質の北海道からサンゴに囲まれた亜熱帯の沖縄まで、東西南北3000kmに渡って海に囲まれた国は日本しかありません。全ての人が空路を利用できる今の時代、日本は世界最強の観光競争力を持ち得るといっても過言ではないのでしょうか?
もう一点忘れてはならないのは、インバウンドの増加は日本に限ったことではないということです。世界的なインバウンド増加の背景にあるのは、それまで先進国の富裕者層だけのものであった海外旅行が、アジアを中心とする途上国の所得向上で急速に裾野を広げているということです。世界のインバウンド上位40カ国合計で見ると、海外渡航者数は過去2010年から2017年までの7年間、年率5.2%で拡大しています。
こうしたことを踏まえると2030年に6000万人という日本の目標は決して過大ではなく、またそれは一つの通過点に過ぎないということが見えてきます。日本も人口を超えるインバウンドを迎える日が来るのでしょうか?すでにインバウンド先進国のフランスやスペインなどではオーバーツーリズムの問題が指摘されていますが、世界的なツーリズム産業の拡大が後戻りすることはないでしょう。
第二の開国を迎えた日本は、こうした先を見据え、準備をする必要があります。